旭化成・日揮HD・LIXILのDX担当役員と竹中平蔵氏が語ったDXを成功させるためのポイント【全産業連携DXセミナーレポート Vol.4】
こんにちは!ミーク広報です。
ミークは、2023年4月に「全産業連携DXセミナー」と題するセミナーを開催しました。本セミナーでは、日本のDXを牽引する企業の役員や業界キーパーソンの方に登壇頂き、企業のCDOなどのデジタル担当・システム部門の方々を中心に、多くの皆さまにご参加頂きました。
noteでは本セミナーのダイジェストをご紹介します。
今回は、CDO Club Japan 理事・事務総長 水上晃様によるセッション「日本のDXの姿~海外動向との比較~」のレポートをお届けします。
DX成功のポイントは「ジブンゴト化」「CX向上」「壁を壊す」「新しい仕組み」
DXは業務の単なるデジタル化でない。ICTで業務プロセスの変革や新事業の創出を起こすことが目的だ。そんなDXを成功させるには、何が必要なのだろう。
ミークが2023年4月に主催した「全産業連携DXセミナー」では、企業でDXの推進役になるCEOやCOO、CIO、最高デジタル責任者(CDO)などがDXを自分ごとと捉えられるよう、DX実践のヒントになる具体的な事例や考え方をキーパーソンが語った。本連載では、同セミナーの一部をピックアップしていく。
「DXとは何か」、現場を知るキーパーソンからの答えは
第4回の本記事は、実際の現場でDXを牽引している企業の役員によるパネルディスカッションの内容を紹介する。
登壇者は、政府にデジタル政策やDX推進を提言してきた慶応義塾大学名誉教授の竹中平蔵氏、LIXILの執行役専務CDOである金澤祐悟氏、日揮ホールディングス の専務執行役員CHRO である花田琢也氏、旭化成 の取締役兼専務執行役員 DX統括 デジタル共創本部長 である久世和資氏の4名。モデレーターは、ミークの営業本部担当執行役員である廣中浩氏が務めた。
ディスカッションの大きなテーマは、「DXは何を改善するのか、そのためにすべき変革は何か」を考えること。コロナ禍の3年間で働き方が大きく変わり、本格的なDXの時代を迎えた今、今後どう変えていくのか、企業はどう動いていくのか、特に企業同士の連携ができないだろうか、といった内容で、登壇者が意見交換した。
「DXとは何か」という廣中氏の 質問に対し、4名はそれぞれ次のように答えた。
DXとパーパス経営の類似性は「ジブンゴト化」
日揮ホールディングスの花田氏が述べたポイントは、「5年間DXをやってきた反省点」として「ジブンゴト化できないと全体のスピードが上がらない」だ。
当初デジタル化を中央集権方式で進めていた日揮だが、現場となる部門や部隊、事業テーマによって要件が異なり、「スピード感にギャップが出てきた」という。そこで、自律分散的なシステムで進めた方が良いと方針を見直しつつ、全体を統一できるよう「ヒト・モノ・カネをマネージ」してガバナンスするようにした。
その過程で学んだのが、DXとパーパス経営の類似性だという。
パーパス経営では、企業のパーパスを部門レベルに落とし込んでも、個人のパーパスと企業のパーパスをすり合わせなければうまくいかない。DXも同様で、「カスケードダウンされて末端まで行き届いているかが重要」であり、DXをなぜやるのかを個人レベルに落とし込む必要がある。つまり、ジブンゴト化できないと、全体的なDXのスピードが上がらない。
DXの狙いはCX向上
LIXILの金澤氏は、「体験にフォーカスするDX」に取り組んできたと話す。
意外なことに、LIXILの提供するリフォームサービスは、メリットのわかりやすい旅行や自動車と競合する事業だそうだ。状況を改善するには、理解しやすいサービスを提供する顧客体験(CX)が鍵となる。そこで、DXの狙いをCXに定めた。
具体的には、提案するリフォーム内容の説明に3DやAR、iPhoneアプリというデジタル技術をフル活用し、ショールームや自宅でリフォームの結果を疑似体験できるようにした。郵便で受け取る紙の図面などでしか確認できなかった以前に比べ、CXは格段に向上した。
メリットを実感しにくいリフォームをデジタルで体験化したLIXILの取り組みは、DXの優れた事例だろう。
DXで壁を壊して「共創」を
旭化成の久世氏は、DXの例として、秘密計算という技術で企業間データ連携が進んだことを紹介した。
化学業界では、新素材の開発スピードをAIやシミュレーションで高める「マテリアルズ・インフォマティック」という手法が使われ始めている。極めて高い効果が得られるものの、要のデータベースをゼロから構築する作業の負担は重い。
素材メーカーはいずれも同じ手法を採用しているので、各社がバラバラに構築するのは無駄だ。複数の企業間で共通のデータベースを用意できれば、無駄は省ける。しかし、材料に関するノウハウは重要な機密であり、おいそれとは公開できない。
そこで利用したのが、秘密計算である。秘密計算を使うと、生データを見せずに必要な情報を提供できるそうだ。こうして構築された共用データベースを活用すると、製品化のスピードを上げられる。競合会社だけでなくサプライチェーンにかかわる企業も巻き込んでいけば、さらに加速できるという。
ここでの鍵は、企業間の連携だ。企業間に限らず、一企業内の部門間にも壁はある。それをDXが壊したことで、データと情報が連携し、新たな価値を生み出す「共創」が可能になった。
DXで訪れる新しい時代には「新しい仕組み」が必要
竹中氏は、企業と違う視点からDXやデジタル活用を語った。データプライバシーが連携の障害にならないよう、新しい仕組みが必要だとした。
たとえば、ドイツは高速道路の利用料金を自動徴収するため、GPS自動車追跡システムを導入したそうだ。便利なことは間違いないのだが、個人の移動が政府に把握されてしまう、との懸念も生じた。そこで、ドイツ政府は新たな管理機関を作って情報を入手しないようにして、利便性向上とプライバシー保護を両立させた。
日本でも、スーパーシティ構想を実運用するにあたり、プライバシー保護が問題になる。そこで、住民の合意をきちんと取って新しい仕組みを作り、そのうえで計画を進める、といった対応が欠かせないという。
産業連携の先にあるDX--それを支える、黒子のIoT通信回線プラットフォーム
DXの現場を知るキーパーソンたちは、実際に経験してきた失敗や成功、具体的な事例を披露してくれた。
日々実感するであろう身近な例や、大局的な考え方、未来を見据えた視点など、組織でDXを推進する際に役立つ話だった。イベント参加者にとって、大きな収穫になったはずだ。