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IoTの中枢を担う「通信」の重要性、その変遷を解説

ミークでは、IoTプラットフォーム『MEEQ』等を提供するIoT/DXプラットフォーム事業とMVNE事業を運営しています。スマートフォンをはじめ、カメラやセンサー、車、家電などさまざまなモノとモノとを繋ぐことで、皆さんの生活がより便利に豊かになっていくことを支えています。そして、その繋ぐ役割を果たしているのが通信です。この記事では、電気やガスと同様に重要な「社会インフラ」の一つとなっている通信に関して、その歴史や重要性を、ミークの取締役 執行役員副社長である細井が解説します。

取締役 執行役員副社長 / 細井 邦俊

電機メーカーにて通信系システムエンジニアとして官公庁および法人向けビジネスに従事。その後、英国系通信事業者および大手国内通信事業者にてインターネットサービスやデータセンター事業、通信系サービスの企画や立上げに従事し、2007年にソネットエンタテインメント株式会社(現ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社)に入社。法人サービス事業、NURO事業およびモバイル事業を経て、2019年3月ソニーネットワークコミュニケーションズスマートプラットフォーム株式会社(現ミーク株式会社)設立とともに取締役副社長に就任。電気通信主任技術者、第一級陸上無線技術士、1級電気工事施工管理技士。


「通信」の変遷

はじめに

日本の通信制度の歴史は、技術革新と社会の変化に伴い、大きく発展してきました。相当昔の話にはなりますが江戸時代以前には、情報伝達の手段として(手紙や文書を運ぶために)飛脚が存在し、江戸時代には五街道を中心にその通信網が発展しました。明治時代になると、前島密によって郵便制度が確立されました。また電信技術の導入により通信手段が飛躍的に進化し、さらに明治22年には電話技術の導入により公衆通信の取扱いも開始されています。

音声が主体の公衆通信からインターネットへ

明治23年東京-横浜間で開始された国営の電話サービスは、とても高価であったこともあり官庁、大会社、新聞、銀行等から導入されましたが、電話の有用性はすぐに認知され、その需要の伸びに供給が追いつかないぐらい急激に広がったとされています。以降、主に音声を伝達する手段として全国に有線通信網が整備されていきました。この旺盛な需要が逼迫する状況は、戦後の人口増加、高度成長期もあり長期にわたり、昭和の後半まで続きました。

この間、音声通信技術は進歩し、電話機、ポケベル、FAX、コードレス電話など、多様な通信手段がより身近な物になりました。更に、1980年代にはインターネットが誕生、1990年代にはインターネットに接続するためのインターネットサービスプロバイダ(ISP)がサービスを開始しました。これにより各家庭から電話回線を利用したダイヤルアップ接続サービス(※1)によるインターネット利用が普及し、インターネットがより身近な物になってきました。

ダイヤルアップ接続は、電話回線とモデム(※2)があれば特別な回線や工事なしに利用できる反面、使用中は電話回線を専有してしまうため、その間電話が使えなくなるという弊害もありました。そのため、例えばメールの確認は、パソコンの電源を入れ、ダイヤルアップでインターネットへ接続をしてからメールを受け取るという手順が主流でした。

2000年代になると、電話回線を利用した新たな通信技術「ADSL(※3)」が普及し始めます。ADSLサービスは、電話回線の従来使われていなかった高周波数帯を使い、電話とインターネット接続の同時利用を可能にしました。通話と同時にインターネット接続が可能で、定額料金・常時接続という形で提供されるという特徴があり、また、従来の電話回線によるダイヤルアップ方式よりも便利で通信速度が速く、更に通信の自由化の波に乗り、多くの事業者がサービス提供を開始したことから急激に一般家庭にも普及が進みました。

※1 ダイヤルアップ接続サービス:アナログ電話回線を使ってインターネットサービスプロバイダ(ISP)にダイヤルアップ接続し、モデム*を介して情報をデジタル信号に変換して、電話回線を通じてデータ通信サービス。
※2 モデム:電話回線などのアナログ信号とパソコンが理解できるデジタル信号とを、相互に変換するための装置。
※3 ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line):一般的な電話回線を使用して高速データ通信を行う技術のこと

そして、2000年代半ばからは“メタル”から“光”の時代に突入します。ADSLでのインターネット利用の急速な拡大に伴い、インターネット上で扱うコンテンツのデータ量も急激に大きくなります。ADSLは技術的な最高速度仕様は下り50Mbps、上り5Mbps程度となっていますが、電話局からの電話線の距離よって速度が劣化する特性や、電話(メタル)回線上での通信品質の不安定性(外部からの影響など)などにより、映像配信等の大容量コンテンツを安定的に扱うには適さなくなってきました。

そこで、電話回線(メタル)とは異なる、光回線を使った情報通信の仕組み「FTTH(※4)」が普及し始めました。その利用にはADSLの時とは異なり、新しく光ファイバーケーブルを敷設する必要がありますが、ギガ単位での通信サービスが可能となり、これがインターネットの可能性を大きく引き上げるきっかけの一つになりました。

※4 FTTH:「Fiber To The Home」の略称で、光ファイバーを使った家庭向けの通信サービスのこと。

移動体通信

無線を使って屋外でも電話ができる移動体通信サービスは、1946年に米国AT&Tが一部地域で開始したことが元祖とされ、日本でも1979年電電公社が開始した自動車電話がはじめとされています。自動車電話用の端末は、大きな通信機器を自動車のトランクに搭載するものから始まり、これにバッテリーを搭載し持ち運べるサイズにした「ショルダーフォン」を経て、胸ポケットに入る現在の皆さんも身近な「携帯電話」といわれるサイズまで小型化がされてきました。また、有線通信と同様に無線通信にもアナログの時代があり、デジタル化を経て通信技術は日々進化し通信速度どんどん高速になってきています。

携帯電話サービスの通信技術は、当初日欧米各国で開発がすすめられたため各国や地域内でのみ使えるサービスでした。これを国際標準化し世界中で同じ端末を使えることを目指して、1985年にITUが「IMT-2000(International Mobile Telecommunications-2000)」を策定します。この時の2000年頃実現する携帯電話システムを「3G(※5)」と定義しました。これを基準に便宜上、アナログ通信時代を1G、各国で開発したデジタル通信時代を2Gと呼ばれるようになりました。

※5 G:generation、移動通信システムの世代のこと。

1G時代の携帯電話といえば車に設置されていた「自動車電話」や「ショルダーフォン」です。今の携帯電話とは異なりショルダーフォンの重さは約3kgもあり、本体の価格が保証金約20万円、月額基本使用料が約2万円、通信料金は1分100円と高額だったので、一部の人が利用するだけにとどまる高級品でした。

その後「2G」で無線技術がデジタル化することで、携帯電話によるデータ通信の利用が本格化すると、1999年、NTTドコモが「iモード」のサービスを開始。これにより、メールやインターネットを携帯電話でも使えるようになりました。「iモード」は当時画期的なサービスで、世界を席巻していきました。

2Gから通信速度が劇的に進化し、2Gでは最大64kbps程度(下り)でしたが、3Gでは最大3.6Mbps程度(下り)まで高速化を実現。この高速化により携帯電話によるテレビ電話・動画・音声などのコンテンツが充実しました。

その後、第3.5世代のシステムとして、最大受信速度が14Mbps程度まで引き上げた「ハイスピード」というサービスが登場。さらに、通信速度を発展させた第3.9世代のシステム(スーパー3G)も登場しています。いわゆる「ガラケー」の普及がこの頃です。

2010年にはiPhoneをはじめとするスマートフォンが普及し、「4G」の時代が到来します。 国内の携帯電話市場をまだガラケーが席巻していた頃、ソフトバンクがiPhoneの販売を開始しました。当時を思い返すと、iPhoneの登場は端末の進化だけでなく、無線通信を飛躍させる一つの大きな起爆剤になったと感じます。従来は“通話するための端末”として携帯電話が存在していましたが、通話を一つの機能として実現した端末(スマートフォン)がiPhoneでした。

その後、スマートフォンも年々進化を続け、より使いやすく、より便利になっていきます。その機能に対応するためにさらなる通信速度・容量の向上が望まれ、「4G」の次に「5G」が実現し、2030年代には「6G」(※6)の時代を迎えようとしています。

※6 総務省「Beyond 5G 推進戦略-6G へのロードマップ-」

通信の自由化

有線通信、移動体通信の変遷を辿る上で、通信がこれほど進歩するきっかけになった出来事の一つとして「通信の自由化」が挙げられます。

1985年(昭和60年)に公衆電気通信法は電気通信事業法に改正され、これにより、電電公社の民営化と、電気通信事業への新規参入、および電話機や回線利用制度の自由化(端末の自由化・通信自由化)が認められました。これに伴い、1987年(昭和62年)に第二電電(現KDDI)、日本テレコム(現ソフトバンク)、日本高速通信(現KDDI)の3社が長距離電話サービスに参入しました。また、現在のソフトバンクやKDDIにつながる民間の携帯電話サービス事業者やPHSサービス事業者が多数登場し市場競争が活発に始まります。これにより、それまで電電公社しか選択肢がなかった通信サービスが、複数の事業者の多様なサービスから選択できるようになり、通信端末自体もレンタルではなく購入ができるようになりました。この回線契約と端末の選択間に縛りがなくなった頃から、国内の端末台数が一気に増えていったように思います。通信市場に競争原理が導入されたことで、昔は高額だった通信料金も徐々に安価になり、一般家庭への通信端末の普及を後押ししています。

総務省が発表した「通信利用動向調査」によれば、2021年の情報通信機器の世帯保有率は、「モバイル端末全体」で97.3%であり、その内「スマートフォン」は88.6%、パソコンは69.8%にのぼります。最近ではAIを活用したサービスの活用も進んでいますが、そうした便利なサービスの裏側(インフラ)を通信が支えているのです。

通信インフラの重要性

通信の変遷とともに、通信サービス(インフラ)が我々の生活の中に浸透し、数十年で飛躍的に便利になってきました。特に、モバイルインターネットサービスの進化により、情報伝達に係る時間と空間の制約が取り払われ、情報発信コストの低廉化によりあらゆる人やモノが様々な情報を発信し共有できるようなってきました。それと同時に、通信インフラの重要性が高まってきていることも確かです。

多くの人が「通信は重要だ」と認識してはいるものの、実際には無意識に利用していることが多いのではないでしょうか。もし通信インフラが急に使えなくなると、証券取引が停止、銀行等の決済処理ができなくなるなど広く経済活動全体がストップする可能性があります。また、空港業務が停止し飛行機が欠航したり、電話やSNSメッセージなどのやり取りやスマホ決済など日常的に利用しているサービスも利用できなくなったりしてしまいます。特に緊急通報ができない状態は、最悪の場合、人命にかかわる事態にもなりかねません。近年、自然災害やオペレーションミスなどによる大規模障害が多発し、広い範囲で通信が使えないことによって様々な事態が発生することは記憶に新しいのではないでしょうか。

このように通信は、時代とともに私たちの日常生活に深く根付き支えており、その重要性は益々増し続けています。同時に、インターネットを介したサイバーテロや大規模自然災害などの脅威も増大しており、通信事業者は安全な通信を維持するために様々な対策を講じています。例えば、設備の二重化、回線の多ルートなどによる別ルートでの通信確保など、その対応はレイヤーごとに実施されています。ただ、通信の世界は広く自由です。そのため利用者自信もウィルス対策やデータのバックアップなどを行うなど、リテラシーを身につけることも重要になってきていると思います。

通信事業者の役割とは

通信制度の変遷の中で、2000年代には通信キャリア(MNO(※7))から回線を借りてサービスを提供するMVNO(※8)が登場しました。MVNOは、通信サービス市場に多様性と競争をもたらしました。

通信キャリア(MNO)は、NTTドコモやKDDI、ソフトバンク、楽天の4社のことを指します。MVNOは、通信キャリア(MNO)が提供している通信サービスを卸してもらい、それを自社ブランドにて移動体通信サービス(小規模な通信サービス)を提供している事業者です。身近なところでは「格安SIM」を提供している事業者がMVNOとなります。

そして、同時期にMVNOが通信事業に参入しやすくなるよう支援をする事業者、MVNE(※9)も登場しました。MVNEは、MVNOに対してネットワークシステムや課金システム、顧客システム等を提供します。これにより、MVNOは独自にインフラシステムを構築することなく市場に参入することができるようになります。

※7 MNO :Mobile Network Operator(移動体通信事業者)
※8 MVNO:Mobile Virtual Network Operator(仮想移動体通信事業者)
※9 MVNE :Mobile Virtual Network Enabler(仮想移動体サービス提供者)
それぞれの解説記事はこちら

MVNO(MVNE)が登場することにより、通信事業者間の競争が増え、より低価格で品質の良い通信であったり、ユーザー一人ひとりの用途に適したプランを選べるようになり、その結果通信の普及は加速していき、皆さんの生活をより快適にすることができました。

MVNEが果たす役割

MNO、MVNO、MVNEにはそれぞれに役割がありますが、ここでは私たちMVNEの役割について詳しく説明します。

MVNEは、各キャリアから回線や、通信を行うのに必要な通信帯域を仕入れて、それをMVNOのニーズに合わせてカスタマイズして提供をします。技術的支援を通じてMVNOの通信事業への参入コストと技術的ハードルを低減し、新規参入者が競争力のある通信サービスを提供するための基盤を作り出しています。

数年前まで「格安SIM」は、料金は安いが通信品質も低いと思われるケースが多くありました。実際、通信の重要性や品質に対する見方も今とは異なっており、競争ポイントも価格重視の傾向がありました。しかし、IoTの広がりにより通信に対する需要や品質などに対する要望(通信速度や信頼性など)が変化してきています。

スマートフォンでいうと、今では高画質の動画を毎日何時間も見る人がいて、月に20GBや50GB、人によっては100GBを使う人もいます。10年前にはこういったニーズはほとんどありませんでしたが、時代とともにニーズは変わっていくので、MVNEはこれらのニーズに応えるために、信頼性の高いサービスを提供し、競争力を日々強化しています。

ミークでは、NTTドコモ、ソフトバンク、KDDI、の3キャリア通信回線を提供しています。複数キャリアの通信回線に対応することで、特定の通信キャリアの通信だけに依存せず、複数のキャリアによる冗長化をとることも可能です。また、ネットワーク構成も特定のキャリアのエリア構成に、セキュリティを強化した自由なネットワーク構成が可能です。加えて、通常はある程度の大量注文が必要なSIMカードも、1枚から注文できる仕組みを導入し、IoTのさらなる普及を見据えた導入にやさしい通信サービスを目指しています。MNO、MVNOそれぞれに得意な領域がありますので、MVNEはMVNOが実現したいサービスを支えることで、皆さんの生活をより便利にしていくのが役割です。

通信技術は、5Gサービスの提供が開始されてから約4年が経過しますが、本格的な利用普及はまだこれからという状況です。スマートフォンが普及し、4Gサービスが当たり前になってきたように、我々MVNEは、5Gサービス、将来的には6Gサービスも提供して広く社会に浸透させ、最新の通信サービスを皆さんの生活の「当たり前」にしていく役割があります。

今後も、MVNO事業者およびエンドユーザーのニーズや新たな技術革新に対応したサービスを随時開発し、高品質で便利な通信サービスを皆さまに提供していきます。


※本記事は、以下の資料等の情報を参考にさせて頂きました。

参考資料
・総務省「情報通信白書(昭和48年度版、令和3年度版)」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/
・The First Mobile Phone Call Was Made 75 Years Ago
https://www.smithsonianmag.com/innovation/first-mobile-phone-call-was-made-75-years-ago-180978003/
・総務省「第1部 「e-Japan戦略」の策定とブロードバンド化 の急速な進展(2001.7.19)」
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/policyreports/joho_tsusin/joho_bukai/010719_1-1.pdf

MEEQの機能やサービス、導入事例などが掲載されています。